むかしむかし、志戸桶の天神泊の渚には大きな岩がありました。その岩にいつも牛つなぎをする牛飼いの男がいたそうです。
ある日、男は牛をつないだまま、うとうとと眠り込んでしまいました。
しばらくしてふと目を覚ますとたくさんのアリが牛を引き倒し大岩の穴に引きずり込もうとしているではないですか。
『あいや!大変じゃ!』
男は一生懸命綱を引き返そうとするのですがびくともしません。とうとう男は牛と一緒に穴の中に引き込まれてしまいました。
ところが、不思議なことに穴の中は大きな野原が広がり畑もあります。
するとそこに一人の男が現れて
『驚かして悪かった。少しの間、あなたの牛をお借りした。』 と言いました。
驚いた牛飼いが
『牛はあなたにあげます。ど、どうか命だけはお助け下さい。』
と言うと、 その男は
『とんでもない!畑が硬くて困っていたけどあなたの牛のお陰で耕すことができた!ありがとう。』と 牛飼いに沢山のお金を手渡すと
『このことは決して誰にも話さないでくれ。その代わり、あなたがお金のいる時はいつでも取りにきなさい。』
と言い畑の方へ 帰っていきました。
それから数年が経ち、男は村一番の金持ちになっていました。
そんなある日のお酒の席で、気分が良くなった男は話してはいけないと言われていたこの出来事を朋輩に話してしまいました。 その話しを聞いた朋輩が『その場所に連れていって見せてくれないか?』と言うので二人でその渚の岩の所に行くと、今まで開いていた穴の口は塞がれ、どうしても開く事は出来ませんでした。
その後もその穴が開く事は二度となく、男は急にお金がなくなりもとの貧乏暮らしに戻ってしまったのだそうです。