天女の羽衣(てんにょのはごろも)

むかしむかし、天女は伊実久(いさねく)集落近くの三原(さんばる)へ降り立ちました。 そこから坂を下り志戸桶の村に入った天女は早町、阿伝を抜け蒲生(かもう)集落に入ると山裾に きれいな水が湧き出る泉を見つけました。 天女はその泉で汗を流そうと泉の脇の木に羽衣をかけ水浴びをする事にしました。

すると、たまたまそこを通りかかった男、 屋樽瀬戸(やたるせと)が木に掛かった衣を見つけました。
『これは珍しいものがある。持って帰って家の宝にしよう!』と衣を手に取ると後ろから
『もし!』 と男を呼び止める声がします。声のしたほうを振り返るとこの世の物とは思えないほど美しい女が焦った様子でこちらを見ています。
『それは私の衣です。持っていかないで下さい。』
あまりの美しさに一目で女を好きになってしまった屋樽瀬戸は 『これは私が見つけた物です。あなたが私の妻(トジ)になってくれるなら返しましょう。』 と言いました。
羽衣がないと天に帰れない女はそれを受け入れ二人は夫婦となったのです。

年月は経ち、二人には一男二女の子供ができました。くらしに困る事もなく幸せに暮らしていたのですが 夫の屋樽瀬戸には一つだけ困った事がありました。それは妻である天人は毎年麦が熟する季節になると麦や稲の穂先のとげを嫌がり羽衣を着て天にのぼってしまうのです。そして稲の取り入れが終わる夏頃になると降りてくるのでした。 毎年毎年忙しい時期になるといなくなってしまう妻に困り果てた屋樽瀬戸は、ある日、羽衣を高倉の稲束の下に隠してしまいました。それからというもの、天に昇るための羽衣を失ってしまった天女は稲麦の取り入れの季節になっても天に昇る事ができず、そればかりを悲しんで過ごしました。

そんなある日のこと、上の子が末の子をおんぶしながら子守唄を歌っているのを聞くと、
『アンマーの飛羽や四股御倉(しこおくら)の稲の五束六束の下にあんどう。』
(お母さんの飛羽は四本柱の倉の稲の五束、六束の下にあるよ。)
と歌っています。 母の天女は、すぐ高倉にあがり、五束六束の稲の下を見たら羽衣が見つかりました。 羽衣を身につけた天女は一番下の子を抱いて天へ飛び上がっていき、それきり下界へ降りることは なかったのだそうです。

しかし残した子供を思う天女は、ときどき団子を作りシルドイ(白い鳥)の首にかけて下界への使いを出しました。 シルドイは子供が団子を受け取るまで庭の石の上を動かず、団子を受け取ると喜んで空へ飛び上がっていくのです。 たびたびその光景を目にした屋樽瀬戸はそのシルドイを嫌い殺してしまいました。 それ以後、天と地の交流はぱったりと途絶えてしまったという事です。

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