花熟み田(ハナウミダー)

昔々、花良冶集落にひとりの男がいました。ある日の夕方、男は田んぼを見回りあぜに立っているとイサンニョウから尾を引いた火の玉が近くの森へ飛んでいきました。 すると、森の中から・・・
『今夜海へ行こう』
『私は目が痛むので行けない』
という話し声が聞こえたかと思うと火の玉は海の方へ飛んで消えていってしまいました。 彼は不思議に思いながら家に帰って寝床につきました。

翌日彼は田んぼを見回り、ついでに夕べ声が聞こえた森の中に行ってみて驚きました。 そこには、人体の死体がつる草に巻かれ横たわっており、その目の所にはつる草の根がさしこまれているではないですか。
「『目が痛むので海へ行けない』といっていた昨日の怪しい声はこのことだったのか」
と思い、頭蓋骨の周りのつる草を刈り取ってきれいにしました。

その年の秋、実りの頃代官所から上納米の下調べに役人がやってきました。ほかの田はすべて調査が済み刈り取りができたのですが、彼の田だけ青々として刈り取りができません。
役人は「これはなんともわけがわからん。仕事をなまけたわけではあるまいな。」と男に聞きました。
男は「め、めっそうなことで・・ほかの田と同じように植えて、同じように手入れをしてきました。」 と答えました。
役人は「しかたあるまい。この田の年貢はおさめずともよい!」とこの田んぼの分は、年貢米をおさめなくてもよい ことになったのです。
彼はぼうぜんと、あぜに立って田を眺めていると例の森から『花熟み、花熟み』という怪しげな声が聞こえてきました。 「なんだろう?」と不思議に思いながらも、その日は家に帰りました。

翌日、家族総出で、その青い稲を刈り取って馬の餌にでもしようと田んぼにでかけて驚きました。 なんと、収穫の見込みのないものと諦めていた田んぼでは一晩のうちに稲は見事な黄金色となり、 重たい稲穂は、まるで畦道をまくらにして寝ているようです。家の者も大喜び。 不思議な事もある物だとみんなでワイワイいいながらずっしりと重い稲を刈り取りました。
この田んぼでは年貢を納めなくても良い事になっています。男は沢山のお米をどうしようかといろいろ考え、集落のみんなに分けてあげる事にしました。 集落の人達はみんなこの思いがけないごちそうに大喜びしたのだそうです。

男は花をつけたままの稲が一晩で実ってしまった不思議な話をみんなにも聞かせました。 そんなことがあってからこの田んぼは「ハナウミダー」とよばれるようになり、毎年、沢山の米がとれるようになったのだそうです。

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